競馬場の恋人 後編

さて前回の続きですが、ひょんなことから
Bさんと一緒に競馬をする事になった俺。

競馬は1人より2人、3人より2人でやるほうがいいですね。
って結局2人がいいんかーい。

まあ時と場合、相手によりますけどね。

と前置きはこのくらいにして始めます。

Bさんは、何でも競馬歴は1年だと言う。

へえーまだそのくらいなんですねーと
なぜか初心者のくせに上から言った。

C君(俺の事)は競馬初めてどのくらいなの?
と聞かれ、今日が2回目ですよとアッサリ。

すると、速攻でまだ2回目かーい!と突っ込みがきた。

俺の中では、最初嘘ついて競馬歴長いふりをしようと思ったが
バレて逆にカッコ悪くなるほうが嫌だなと正直に行く事にした。

そんな真っさらでさらりとふざけてみるほうが、Bさんは好きだと
勝手に思った。

しかし、想像以上にノリがいい。そして良く笑う。

まあ一緒に競馬しようと言うくらいだから、そんなに俺の事は
嫌じゃないはずだ。

そんなわけで、Bさんはじゃあ今日はお姉さんが色々教えてあげる。

いちいち、ドキッとさせる言葉を言う。

なんとなく、俺は首にリードをつけられた犬のような気分になり
それも悪くはないんだが、ちょっと抵抗してみた。

でも、俺先週、勝ちましたよ。5R中3R当たったんですから。

するとBさんは、はいはいビギナーズラックね、と俺の言葉を
右から左へ受け流した。

完敗です。そういえば、今日結構暑くないですか?
何か飲みます?

Bさんは、冗談交じりにおごってくれるならと
マックばりの0円スマイルをくれた。

俺は、授業料ですよと前回誰かに言った同じような文言を
並べる。Bさんはやっすぅーと言いながらも特別ねと
俺の好きなツボを押してくれた。

そして、完敗後の乾杯。

普通のジュースが、やけに美味く感じた。

俺は、Bさんの事が気になり、いろいろ知りたくなった。

それで、Bさんに何歳かとか仕事は何やってる人か
など聞いてみると、意外な答えが返って来た。

C君、あのさお互いのプライベートは、とりあえず話さない事に
しない。今は一緒に競馬をする恋人でいいんじゃないかな?

こ、恋人?

うん、競馬場の恋人。

そっかーそれもいいかもしれない。
何よりも俺は、競馬場の恋人というフレーズにやられてしまった。

さてでは、授業を始める。出席番号1番C君。

俺が黙っていると、返事はと言われ、思わずデカイ声でハイ!と答えると
周囲の人がビックリしてこっちを見るので、Bさんは思わず、人差し指を
立ててシーッとジェスチャーした。

その仕草がまた可愛かった。

もしかして、本当に先生だったりして、
んなわけないかw

そんなわけでB先生の授業が始まった。

C君次のレース勝つ馬は、どれでしょう。
と言われても、まだ競馬初心者の俺。

馬券の買い方は分かったけれど、どの馬が弱いとか強いとか
全く分からない。ただ直感でコレがいいと指さした。

Bさんえっなんで?

えー何か名前良くないですか?勝ちそうな名前してます。

C君名前って、そんなんで馬券当たらないわよ。

そこからB先生の猛講義が始まった。

新聞の見方やオッズの人気など、かなり本気モード。

俺は頭がパンクしそうになったが、B先生の授業なので
必死についていった。

しかし、さっきまでのデート気分が何か本当に競馬を覚える専門学校
にでも来たかのような展開。

でも、こんな感じの展開も嫌ではなかった。
むしろ楽しかった。

その日Bさんの予想は、見事に的中しまくり、先生としての面目躍如となった。

俺も最初だけは自分の直感馬券を買ったものの
あっさり外れたため、B先生という勝ち馬にのった。

おかげで2人とも楽しい競馬の時間を過ごす事が出来た。

俺は、ずっとこのままレースが終わらなければいいなと思っていた。

しかし、最終レースが終わり、お別れの時間がやってきた。

俺はBさんに今度いつ会えますか?そんな言葉が自然と出ていた。

Bさんもどうやらその言葉を待っていたかのようでした。

また来週ここで、と競馬場内の待ち合わせポイントを決めた。

別れ際俺は振り返り、必ず待ってますからねー先生~と
言うと、Bさんは振り返り、笑顔で手を2度振った。

俺は来週までに少しはまともな予想が出来ているように
競馬を勉強することにした。

次の日、職場に行くと俺を見つけるや否や、先輩がすぐに駆け寄って来た。

昨日はわりぃわりぃ、助かったわ。
先輩助かったじゃないですよー。

本当悪かった。後でこの埋め合わせはするから。
それしても、お前のあの下手くそな持ち上げ方笑ったわー。

酷いっすよー先輩。

でもな、A(先輩の彼女)お前の事褒めてたぞ。

そうなんですか。うん、面白い人だねって、
えっ?それ褒めてるんですか?

まあいいじゃないか。Bちゃんも笑ってたしなw

あっBちゃんと言えば、お前らあの後どうなった?

俺はその言葉に一瞬ビクッと反応しそうになったものの
普通の顔をして、あの後ですかー先輩帰ったから俺もすぐ帰りましたよー。

そう嘘をついた。

先輩に勘ぐられるのも嫌だなという理由もありましたが、
一番の理由は、Bさんの競馬場の恋人という言葉が妙に引っかかったからだ。

おそらくBさんも先輩の彼女Aさんには、俺とのその後を話してないと思ったから。

先輩はそっかーまあ悪かったと再度謝ってきた。

でも、俺しばらく競馬行けないんだよなーあーあと
今は自分の事で頭がいっぱいなようだった。

とにかく先輩には、バレずに済んだ。

俺はというと、来週が来るのが待ち遠しかった。

そして、楽しみの週末がやってきた。

日曜日晴天、芝、ダートとも良馬場
最高のコンディション。

何より、競馬場の恋人に会える日だ。

さあ行こう。そう思った時、電話が鳴った。

出ると、職場の同僚からで、午前中悪いんだけど、
2時間ばかり仕事手伝って欲しいとの事。

どうしても急ぎの仕事で助けてほしい。
切実な声だった。

でも断りたい、いや断ろう、一瞬そう思ったが実はその同僚には
借りがあった。こんな時に返せなかったら、仲間じゃないよな。

俺は思い直して、今からすぐ行くよと同僚に告げ電話を切った。

俺は、この仕事について以来、今まで出した事のないような本気を出した。
同僚もかなり驚いていた。

本来ならば、早くても2時間はかかるであろうその仕事を俺は
同僚と2人で1時間ちょっとで終わらせた。

同僚が本当助かったよ。ありがとう、コーヒーでもおごるよと言ったのだが、
ゴメン俺今ちょっと時間ないから、今度ごちそうしてくれと
早々に職場を後にした。

競馬場についた頃には、もうすでに12:00を過ぎていた。

俺は急いで待ち合わせ場所に向かった。

しかし、待ち合わせ場所にBさんはいなかった。やっぱり遅かったか。
でも、どこかにいるかもしれない。

そう思い、パドックや馬券売り場など探し回ったが一向にBさんは
見つからなかった。

俺がいなかったから、帰ってしまったのかな。
そう思いながらも、もう一度だけ待ち合わせ場所に戻るとBさんがいた。

汗だくで息を切らしている俺を見て、Bさんは遅刻だよ。廊下に立ってなさい
と言いながら、微笑んだ。うそだよ。私も今来たばかりだから。

でも、それはBさんの俺を思いやった嘘だと気づいた。

なぜなら、Bさんの持っていた競馬新聞は1Rからしっかり予想の印が
書かれていたから。

そんな気持ちが嬉しかった。

Bさんお昼なんでご飯食べませんか?
俺ご馳走しますから。

ところがBさんは食べないという
お腹一杯になると競馬に集中出来なくなるから。

プロですやんw

俺はBさんに感服したしましたと言った。

じゃあ簡単に食べれてお腹一杯にならないもの
買ってきます。

Bさんは、ならアメリカンドッグがいいと言うので、2本買ってきた。

Bさんは、顔に似合わず、結構豪快な食べ方をする人でした。
口を大きくあけて、ガッツリ食べます。(ジロジロ見てたわけではありませんw)

競馬場にいる女子、オッサン化説。あるかもしれません。

俺も負けじとアメリカンドッグを頬張ります。

すると、口元にケチャップがついたのでしょう。それを見たBさんは
手で俺の口元をふいて、食べた。ドキッとしたが、俺はそんな思いを
隠すために俺は子供か!と言う。

うん子供。Bさんはそう言って微笑んだ。

俺の心もてあそぶやん。

何とかマヨネーズではなく、俺の口元のケチャップが
確かにそう言っていた。

傍から見たら、まぎれもなくカップルである。

そんなBさんに競馬を教えてもらい、俺も少しずつ
競馬の事が分かるようになっていった。

それと同時にお互いの距離もどんどん縮まっていった
ように思う。

あっという間に3か月が過ぎていた。

Bさんと俺が、完全に競馬場の恋人になった頃、
運命の時はやってきた。

いつものように、待ち合わせ場所でBさんと会う。

しかし、今日のBさんの表情は、どこか違う。

俺は、嫌な予感しかしなかった。馬券は当たっていいけど、
この予感は当たらないでほしいと願った。

静かに呼吸を整えるBさん、意を決したかのように
しゃべり始めた。

C君あのね、、あれっおかしいな。
なんでだろうと言いながら、Bさんの目からは涙があふれていた。

俺はその涙を見て、なんとなくそれが別れの言葉であると理解した。

言わなくて、言わなくてと後の(言わなくて)いいが言えないくらい
俺の心も苦しんでいた。

次第に俺の頬にも熱い何かがつたっていたのを感じた。
嫌だという気持ちを必死にこらえながら、とめどない感情が目から流れていた。

卒業か、、
じゃあ今日は卒業式だね、Bさん。

そう言うと、Bさんはうなずいた。

俺たちは、いつも以上に競馬を楽しみ、いつも以上にloveloveなカップルだった。

お互い最後の時間と分かっていたからこそ
精一杯の時間を過ごせた。

もし、今日がこの世の終わりでもいいなと思えるくらい
そんな幸せな時間を送れた。

こうして、二人は競馬場の恋人に別れを告げた。

ありがとうBさん、そしてさようなら。

良き思い出として生涯の1ページに残します。

競馬にかけた男達 迷走が人を時に無謀へと走らせる

競馬場の恋人 前編

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